「機動戦士ガンダム Twilight AXIS」金世俊監督インタビュー

「機動戦士ガンダム Twilight AXIS」金世俊監督インタビュー

サンライズと共に名を上げてきた金世俊。『結界師』や『テイルズ オブ ジ アビス』から世界的なアニメシリーズとなっているガンダムの『機動戦士ガンダムUC』や『ガンダムビルドファイターズ』で独特なメカとFXアニメーションによって注目を浴びて、そして現在ネット配信中のガンダム最新作『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』で待望の監督デビューを果たされました。監督になるまでの道のり、過去に参加した作品、そしてこれからの事について、Sakuga Blogでインタビューを行いました。


— お忙しい中、インタビューを受けてくださってありがとうございます。

初めまして、金世俊(Sejoon Kim)です。
よろしくお願い致します。

— いつアニメーターになりたいって思うようになりました? きっかけは何だったのでしょう?

最初は漫画家を目指していましたが、日本への留学が決まった後、韓国の出版社から漫画家のお誘いをいただいたんです。その時、漫画家のオファーがあったから、漫画家にはいつでもなれると思ってしまったんです。それで、‘では、やったことがないアニメを勉強してみようか!’と心を決めたんです。
今から考えてみると、ずいぶん呆れた感じのきっかけだったと思います。

— アニメ業界に入られたのは、サンライズ作画塾(当時はサンライズ若木塾)に入塾からサンライズへ。塾のころはどういったものか伺えますか。

サンライズ若木塾は簡単に言えば、新人のアニメーターの研修機関だと思えば、一番わかりやすいと思います。
現場へ行かせる前に基本的なスキルやその他、仕事に必要なイロハを新人アニメーターに教える所です。
ですので、専門学校でしっかり勉強をしている人であれば、少し退屈にも思えるかもしれません。
私は1日でも早く現場へ行きたかったんですが、そうはなりませんでした。
でも、今は同じ若木塾出身の方々が色んな作品で活躍されているので、いい繋がりが出来てよかったと思います。

— 始めは動画から第二原画、そして早くも原画や作画監督としてアニメ制作に携わってきました。原画担当として初めのころの『銀魂』と『結界師』ですが、そういった何クールも超える長期アニメのお仕事は短期アニメのお仕事と比べるといかがでしたか。

難しい質問ですね。
基本的な作業はかわらないです。
個人的には、スケジュール管理と体調の管理、この二つには気を使います。
長期アニメは言葉通り長期ですので一回スケジュールが崩れると元に戻すのがなかなか大変です。ですので、なるべくスケジュールが崩れないように、制作さんとコミュニケーションをとりながら作業することを心かけています。
体調管理はプロとしては当たり前のことですが、長期アニメの場合、長い休暇はなかなか取れないです。体調を崩して何日も休んでしまうとスケジュールが崩れてしまう可能性が高いですので、基本、徹夜はしない、一日6~8時間は寝るようにしています。あとは週2~3回はジムに行って運動をする、食費はケチらない。
ごく普通のことしか言ってない気がしますが、このくらいでしょうか。

— 『結界師』と『テイルズ オブ ジ アビス』で高谷浩利さんとのお仕事はいかがでしたか。高谷さんにどのような影響を受けられたのでしょう。

その頃は、まだ新人の時でしたので、色々刺激になりました。
当時は高谷さんと玄馬さんが隣同士の席でしたので、毎日、二人の席に挨拶に行っては色々お話をしたり、どういう風にお仕事をされてるのかを覗いてみたりしましたね。
そういう意味では高谷さんから影響を受けたとも言えますが、個人的に何かを教えてもらったり、私が高谷さんの作画を追いかけてたりはしてなかったんです。
とはいえ、高谷さんの描くキャラが好きなので知らないうちに高谷さんの表情付けを取り入れたりしたかもしれません。

— それから『機動戦士ガンダムUC』にも参加されましたね。『ガンダムUC』といえばロボとキャラクター両方が細かく描いている作品。前にも自分にとって大切な作品でしたとおっしゃいましたが、それに関してもう少しお聞きしたいと。

そうですね。この作品のお陰で私のメカ作画の引き出しが確実に増えました。メカを地味に動かす作品は最近あんまりないです。『劇場版Zガンダム』とか『ガンダムUC』といった作品に関わらない限り、なかなか経験するのは難しいです。
あと、地味に動かすのは本当に大変な作業ですので、描く人がどんどん少なくなっているのも事実です。そういう意味でアニメーターになって3~4年目の早い段階で『ガンダムUC』で原画や作画監督を経験できたのは本当に大きな財産になりました。
玄馬さんや仲さん、中谷さんといったすごい先輩たちのお仕事を自分の目で直接見るのができたので、今の私のメカの描き方に様々な形で生かされていると思います。

— 個人的に金さんを知るようになった作品は『機動戦士ガンダムAGE』で、特に第24話で主人公が新しいガンダムで発進するシーンが印象的でした。振り返ってみると、金さんが参加された回はダイナミックなカットばかりで感動しました。『ガンダムAGE』で別けて張り切られた理由とかはあるのでしょうか。

『ガンダムAGE』のチーフメカアニメーターの大塚さんの指針で、試したいのがあれば自由に試しても良いと言われました。もちろん、作品の世界観を大きく外れない前提ですが。
なので、大塚さんと色々アイディアを相談したりして、シーンを構築しました。あと、演出の酒井さんとの仕事でも色々学ぶことができました。
作品全体的にかなり自由な雰囲気があったので作画ものびのびと出来たかなと思います。

— 『ガンダムビルドファイターズ』でチーフメカアニメーター・メカニック作画監督を勤められましたが、具体的にチーフメカアニメーターとはどういったお仕事なのでしょう。大変なところは何だったのでしょう。

作品においてメカの表現の大きな流れや方向性を決めるのが一番大きな役割だと思います。作品によっては総作画監督のような仕事をやる場合もありますが、『ガンダムビルドファイターズ』では総作画監督のような仕事はやらなかったんです。
『ガンダムAGE』の流れを引き継いで、なるべく自由にできる雰囲気を作ろうと勤めました。
特別に大変だったのはなかったんです。私自身が張り切りすぎて体調を崩した位ですかね。

— 『ビルドファイターズ』ED2で最後の方には金さんが担当したカットがありますけど、尺の短いカットでありながらすごく凝った絵で驚きました。それはもともと絵コンテにあった指示なのでしょうか?

打ち合わせの時に長崎監督からコンテがあんまり格好良くないので、コンテは無視して、とにかく『格好良くしてくれ』と言われました。ですので、コンテとは違う内容に変更して描きました。時間はなかったんですが、楽しい仕事でした。

— 個人的に金さんの好きなシーンといえばOP1のカットが印象的で。演出の大張正己さんのようなロボットアニメの大先輩とのお仕事はいかがでしたか。

悩みましたね。作画監督として、どの位修正を入れるべきか何日も悩みました。‘こうすればもっとカッコ良くなるのに’と思うところがたくさんあったんで…
結局、後悔の残らないように遠慮なく修正を入れましたけど、途中から大張さんの演出指示で、‘このカットは修正を入れないでほしい’と書かれたカットも1~2カットありました。
楽しかった仕事で、良い思い出ですね。

— ある人達は金さんの絵には大張さんの影響を感じられますが、それは90年代に大張さんの指導で活躍されていた高谷さんから受けた影響なのでしょうか。

それはないですね。
よく素人の人達は、私のメカが大張さんと似ていると言うんですが、周りのメカアニメーター達からは大張さんとは全く違うと評されます。
周りのメカアニメーター達からは佐野浩敏さんに近いと言われますね。
言われてみれば、私のメカは金田伊功さんと佐野浩敏さん、この二方の要素にガンダムUCの影響が混ざったものかと思います。
もちろん、一緒にお仕事をさせていただいた、高谷さんと大張さんの影響も何処かにあると思いますが、大きく分けて、金田伊功さん(モスピーダのOPは私の一番好きなアニメ映像です)と佐野浩敏さん(ガンダム0083STARDUSTMEMORY、格好いいです!!!)、ガンダムUC (特に玄馬さん)の影響がかなり大きいかと思います。
あと、メカのカットを描く前までは、ほとんどメカを描いたことがなかったのも大事かもしれません。

— 金さんの絵は表現力豊かでどの作品でも一瞬で見分ける。特に凝った爆発シーンやミサイルとレーザーが追ってくるシーンが代表的だと。そして一番好きなところはカメラも主体も常に動かして立体感を得ること。こういうアニメーションのテイストはどうやって学んだか少しお話してもよろしいのでしょうか?キャリアの途中、アニメーションのアプローチを考え直すきっかけとかあったのでしょう。

学生の時に羽根章悦(はねゆきよし)さんから色んなことを教えていただきました。学生の時、講師だった先生とはアニメや絵、芸術等々、色んなことに関してたくさんお話が出来まして、お陰様で、今の私のアニメーター像の基本を確立することが出来たと思います。
ある日、先生との会話の中で『付けパン』のカメラワークの話題が出て、色々貴重なお話をいただいて、そこから自分ならではのカメラワークを少しずつ模索していくことになりましたね。
話し出すと非常に長くなると思いますが、ざっくり言うと、カメラマンと被写体との駆け引きを考えることでしょうか。
表現力に関しては、音楽や映画(Wong Kar Wai, F.W.Murnau, Ingmar Bergman, 岩井俊二等々)、文学、絵画から得たものが多いです、特に私にとって音楽は欠かせないものですね。
こういうアニメではないジャンルからの影響がかなり大きいです。あとは金田伊功さんのモスピーダのOP です。

— メカアニメーションだけでなく、キャラクターアニメーションも絶妙。『ガンダムAGE』の最終回でフリットがユリンに走りかける大事なシーンが細かい動きで感動しました。そういったエモーショナルなキャラクターアニメーションがお好みなのでしょうか?

ありがとうございます。
そうですね。大好きですね。アクションやエフェクト、メカも好きですが、エモーショナルなキャラクターのシーンもかなり好きです。『ガンダムAGE』の最終回の担当シーンのような仕事をやってる時は感情移入しすぎて私の顔の表情が半分泣き顔になったりします。人に見られてしまうと、きっと、ドン引きされるでしょう。
そういう意味で、『ガンダムAGE』最初のENDINGアニメーションの仕事も凄く楽しかったです。

— アニメーターとしての経歴を振り返って、一番苦労されたカットは何だったのでしょうか。

そうですね。
劇場版『ガンダムOO』のカットで、メカがビームやミサイルを回避するカットでしょうか。
当時はまだ、そういうカットの経験が無かったんです。でも、誰かに教えてもらう気はそもそもなくて、一人で色々悩みながら描いてました。画面を見たときはあまりの出来の悪さに凹んでしまって、新宿で朝まで酒を飲んで泥酔いした覚えがあります。身も心も辛かったです。
でも、その時の試行錯誤のお陰で自分ならではのプロセスを見つけるのが出来たので、今は貴重な経験だったと思っています。

— 最新作の『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』の話題に移りまして、どのような経緯で監督として関わることになったのか、教えてもらえますか。

サンライズの谷口プロデューサーから声をかけていただいたのが切っ掛けですね。谷口プロデューサーとは何回か一緒に飲んだことがあります。その時の色々話をしたんですが、そういう会話の中で谷口プロデューサーが何か感じたことがあったのではと思います。こういう所から今回の作品の監督のオファーに繋がったのではと私なりに推測しています。
作品自体は、最初は4~5本の短いピクチャードラマのようなものを私を含めて4人位のクリエーターが一本ずつ監督を務める企画でした。しかし、なぜか、私一人が監督をすることになりましたね。

— アニメーターから監督に挑戦してからの苦労、もしくは予想されなかったところはあるのでしょうか。

作画以外のセクションの方達との打ち合わせが一番苦労したことでしょうか。
私自身、アニメーター出身ですので、今までは大体アニメーター同士での打ち合わせがほとんどでした。アニメーター同士だとイメージの共有が非常に楽です。でも、作画以外のセクションとの打ち合わせは、自分の中のイメージをもっと分かりやすく、なおかつ正確に相手に伝える必要があるので、資料とかもなるべく多く用意して、必要であれば何回も打ち合わせを重ねて行いました。
あとは、カッティングや編集の大切さも改めて感じました。

— 『Twilight AXIS』は監督だけではなくて、絵コンテからキャラクターデザイン、メカニカルデザイン(阿部慎吾さんとの共同)、そして脚本まで担当されました。そこまで作品全体の方向を決める立場になれたのは色々大変そうですが、実際はいかがでしょうか?

そうですね。とにかく、仕事の量が多かったんです。限られたスケジュールの中で、こなさなければいけない物量が多かったのが一番大変だったと思います。
でも、それぞれの仕事はすごく楽しかったです。とくに、脚本とコンテ作業は夢中になって、時間が経つのも忘れて作業をした覚えがあります。

— これからまた監督として参加したい気持ちはあるのでしょうか。もしそうであれば、金さんが担当されたオープニングアニメーションも是非見たいです。

チャンスがあればやってみたいです。まあ、目標は自分のオリジナルの作品を作ることですけど。
オープニングの仕事は幾つか来てましたが、タイミングが合わなくて出来ませんでした。タイミングさえ合えばやってみたいです。

— アニメーターとして12年間以上活躍してきた金さんは、新人アニメーターや業界希望者に対してアドバイスはありますか?

またも難しい質問ですね。
人間として自分の人生を生きていく上で『努力する』ことは『当たり前』のことです。いくら会社で長く仕事をやっても上がりが使えないものだったら、そのアニメーターの価値は『無』になります。新人アニメーターや業界希望者の方達は冷静に自分がアニメーターに向いているのかを考えてみる必要があります。基本的な才能もないのにアニメが好きだからアニメーターを目指すのは少し危ない考え方だと思います。仕事は趣味とは違います。アニメを作るのが好きにならないと、この仕事は厳しいと思います。漫画やアニメを見て楽しむのと、それらを作るのには大きな差があります。今の私が言えるのはこの位でしょうか…(一応、私個人の意見です。別の考え方を持ってる方も大勢いらっしゃるでしょう。)

— 最後にSakuga Blogの読者、そして海外のファンの方に向けてメッセージをお願いします。

こういう風にSakuga Blogを通して、海外のファンの方達とお会い出来たのを嬉しく思います。
インターネットのおかげで今は国境を気にせずにアニメを楽しむことが出来るようになりました。それに従って、私自身も色んな国々の方だちとの交流も増えました。
こういうインターネットの発達はアニメのあり方にも多大な影響を及ぼしているのも間違いありません。これからの時代にもアニメが愛され、今より健康的で豊かになることを切に願っています。そのためには皆さんの力も必ず要ると思いますので、これからもアニメのことをよろしくお願い致します。

— 本日はお時間をいただき、どうもありがとうございました。

ありがとうございました。


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